2010年05月21日

縁を生かす

縁を生かす

縁を生かす

 その先生は、小学校5年生の担任になった時、自分のクラスの中に一人、
どうしても好きになれない少年がいました。服装が不潔でだらしなく、好きに
なれなかったのです。先生は、中間記録に、少年の悪いところばかりを記
入するようになっていました。
 
 ところが、ある時、少年の1年生からの記録が目に止まりました。
 1年生の時は、「朗らかで、友達が好きで、親切。勉強もよくでき、将来が
楽しみ」と記録されていました。「間違いだ。他の子の記録に違いない。」と、
先生は思いました。
 2年生になると、「母親が病気で世話をしなければならず、時々遅刻する」
と記録されていました。3年生では、「母親の病気が悪くなり、疲れていて、
教室で居眠りする」3年生後半の記録では、「母親が死亡。希望を失い、
悲しんでいる」4年生になると、「父は生きる意欲を失い、アルコール依存
症となり、子どもに暴力をふるう」

 先生の胸に激しい痛みが走りました。ダメと決めつけていた子が突然、
深い悲しみを生き抜いている生身の人間だと感じられたのです。先生に
とって、目を開かれた瞬間でした。
 放課後、先生は少年に声をかけました。「先生は夕方まで教室で仕事
をするから、あなたも勉強していかない?分からないところは教えてあげ
るから。」少年は初めて笑顔を見せました。

 クリスマスの午後、少年が小さな包みを、先生の胸に押しつけてきまし
た。あとで開けてみると、香水の瓶でした。亡くなったお母さんが使って
いたものに違いない。先生はその一滴をつけ、夕暮れに少年の家を訪
ねました。一人で本を読んでいた少年は、先生に気がつくと飛んできて、
先生の胸に顔を埋めて叫びました。「ああ、お母さんの匂い!きょうは
素敵なクリスマスだ!」

 6年生の時、先生は少年の担任ではなくなりました。
 卒業の時に、少年から一枚のカードが届きました。「先生は僕のお母
さんのようです。そして、今まで出会った中で、一番すばらしい先生でし
た。」
 それから6年が経ち、またカードが届きました。「明日は高校の卒業式
です。僕は5年生で先生に担当してもらって、とても幸せでした。おかげ
で奨学金をもらって医学部に進学することができます。」
 さらに10年が経ち、またカードが届きました。そこには、先生と出会え
たことへの感謝と、父に叩かれた体験があるから患者の痛みがわかる
医者になれると記され、こう締めくくられていました。「僕はよく5年生の
時の先生を思い出します。あのままダメになってしまう僕を救ってくださ
った先生を、神様のように感じます。大人になり、医者になった僕にとっ
て最高の先生は、5年生の時に担任してくださった先生です。」
 
 そして1年後、届いたカードは結婚式の招待状でした。
 「母の席に座ってください」と一行、書き添えられていました。

 たった1年間の担任の先生とのご縁。その縁に少年は無限の光を見出
し、それを拠りどころとして、それからの人生を生きた。ここにこの少年の
素晴らしさがある。
 人は誰でも無数の縁の中に生きている。無数の縁に育まれ、人はその
人生を開花させていく。大事なのは、与えられた縁をどう生かすかである。


「心に響く小さな5つの物語」 より
藤尾秀昭 文
致知出版社


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